
| 中小企業経営者への法務実務アドバイス(第68回) 〜喧嘩両成敗?壊れた機材は誰が弁償?パワハラの後始末は会社の責任か!!〜 |
| SRアップ21北海道 (執筆担当は文末) |
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| なんとも呑気なY社長ですが、この本件は笑い事では済まされません。「ここは社長の出番」とばかり、社長自らが陣頭指揮を執る場面です。それを当事者の総務部長に全面的に任せてしまったのでは、事の解決は難しくなります。本件は単なる個人的な問題ではなく、会社の「ある状況」(例えば利益至上主義、従業員使い捨て等が考えられます)が引き起こした問題といえます。パワー・ハラスメントが起きるような職場は、職場環境や人間関係の悪化が起きていて、会社の危機が迫ってきているサインだと思います。 本件を契機に会社の抜本的な改革が必要です。相談に来られたM総務部長には次のようにアドバイスしました。 ■パワー・ハラスメントの認識と職場環境の改善 パワー・ハラスメントとは、権力や地位を利用した嫌がらせという意味で用いられる言葉です。会社などで職権などの権力差(パワー)を背景にし、本来の業務の範疇を超えて継続的に、人格と尊厳を傷つける言動を行い、就労者の働く環境を悪化させる、あるいは雇用不安を与える行為を言います。この言葉は2002年秋頃の岡田康子さんの造語による和製英語で、現在では過労死(karoshi)と共に日本の労働問題から発生した言葉の一つとして、海外で用いられることもあります。 M総務部長は、なぜこのような事態になったのか理解できないでいます。そして社員に「俺は悪くないよな…」と問いかけています。パワハラをめぐるトラブルにおいて、加害者の言い分及び態度は、ほとんどM部長と同じです。相手の立場を理解せず、相手の性格や気持ちを理解せず、相手の意に反して、自分勝手な判断で相手を傷つけてしまう、その事こそが問題です。 パワハラをめぐる裁判では、セクハラ同様の趣旨で判決が出されています。それは、「使用者は労働者がその意に反して退職することがないように職場環境を整備する義務を負い、また、労働者の人格権を侵害する等、違法・不当な目的・態様での人事権の行使を行わない義務を負っているものと解すべきである」(「エフピコ事件」水戸地裁下妻支部、平成11年6月15日)というものです。このようにパワハラは単なる個人の問題や特殊な事件ではなく、職場の労働問題であり、会社は、職場環境に関して責任を問われる時代になったことを自覚しなければなりません。 M部長は、パワハラについて深く認識し、反省し、真摯に職場環境の改善に取り組む必要があります。 ■組織の見直しとリーダーシップ F社における社員の育成や労務管理はすべてM総務部長に任せているということですが、そうすると権限と責任がM部長ひとりに集中してしまい、これが問題の真因となっています。社長には社長としての役割があり、M部長の下には権限を移譲された部下がいて、役割分担がなされ、全ての権限と責任が分散されるべきです。パワハラが起こるのはM部長の性格によるものではなく、F社の組織に問題があり、組織の見直しが急務になります。 管理職になると必ず読むのが、「部下を持ったら読む本」とかいうタイトル名の本です。 そこにはリーダーシップについて書かれています。リーダーシップそのものの意味は、基本的には「リーダーの発揮する統率力、指導力」ですが、もう少し具体的にいうと「目標達成に向けて人々に影響を及ぼすプロセス」です。また、リーダーシップに関する実証研究の多くは、リーダーシップを主として「人」と「仕事」という2次元でとらえ、そのうえでリーダーの行動を説明しています。例を挙げると、三隅二不二のPM理論やブレーク&ムートンのマネジリアル・グリッド理論です。いずれの理論も「仕事」と「人」に関するマトリックス展開を行うものですが、いずれも「仕事への関心」と「部下への関心」が高いことを理想としています。しかし、この二つを両立するのはなかなか難しく、うまくバランスを取りながらリーダーシップを発揮することになります。M部長の場合、まず「部下への関心」を高め、良好な人間関係を形成していくことでしょう。そうすれば、自然と職場の雰囲気が良くなり、部下に八つ当たりなどする必要もなくなります。職場環境が良くなると業績も向上します。 ■経営理念と人事労務制度の改革 職場でトラブルが発生するということは、人事労務制度に何か問題があります。優れた人事労務制度を作るというのは大変なことですが、少なくともその会社の経営理念と一体化したものでなければなりません。例えば経営理念において「地元商店街の発展のために」とか「顧客第一主義」を掲げていながら、人事労務制度は個人別成果主義やノルマ第一主義というのでは、最初から矛盾が生じています。そのような会社は遠からず綻びが出ます。経営理念は、企業の経営活動推進にあたって、経営者によって一般的に表明された基本的な考え方を示すものです。会社は何のために存在するのか、会社はどのように行動し活動すればよいのかを示す、あるいは方向づけを与える考え方です。近年、企業を取り巻く環境の変化が激しくなっています。環境変化に対応するためには小手先の改善策では無理で、経営理念の成文化、経営戦略の抜本的見直し、経営組織の変更、そして人事労務制度の改革が必要になります。これらが一本の糸で繋がってはじめて「人事労務システム」が完成します。F社は、全社的に抜本的改革へ取り組む必要があると考えます。 最後に、本件において、まずY社長がS社員と話し合いの場を設け、S社員の気持ちを聞いて、最善の方策を考えるべきです。できるならば、S社員の退職は撤回、機材の弁償及び治療費はあまり負担にならないように…。M部長の処遇は、降格させるより深く反省をしてもらい、明るく風通しの良い社風作りに邁進してもらうのが最も良い解決の道になることでしょう。 |
| 本件は,M総務部長とS社員の喧嘩の問題ですが,重要なのは,雇用契約の付随義務として,F社がS社員に対して職場環境を整える義務があること,S社員がF社に対して什器備品等を適切に使用する義務があると考えられること,等の問題です。本件では,F社,S社員いずれもがかかる義務に違反していると思われますので,双方に損害賠償責任が発生する可能性があります。 また,雇用契約上の問題を離れれば,F社の使用人であるM総務部長がS社員をいじめたものとして,S社員は,M総務部長個人に対する慰謝料等の損害賠償請求権,F社に対する使用者責任を追及できるという問題があります。他方,M総務部長が怪我をしたのであれば,M総務部長は,S社員に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を行使しうるという問題が生じます。 ■ S社員のF社及びM総務部長に対する請求 パワハラ問題については,セクシュアルハラスメント(セクハラ)問題と比べれば,いまだ判例上類型化できるほどの集積はありません。 しかし、いずれの問題も、社会人として一定程度のトラブルの受忍義務があるところ、これを超えて社会通念上不相当とされる程度の人格権侵害行為があれば、違法行為とされるという意味では、類似の問題でしょう。 さて、パワハラ問題として会社側の責任が問われた裁判例としては、(1)特定政党党員並びにその同調者である従業員を監視し孤立させる等した行為が人格的利益を侵害する不法行為に当たるとして90万円の賠償責任を問われた関西電力事件(最高裁H7.9.5判決)、(2)従業員を退職に追い込むため暴力行為や仕事差別を行った点につき、330万円の賠償責任が問われたエールフランス事件(千葉地裁H6.1.26判決)、(3)上司によるいじめが原因で職員が自殺したと認定され約1200万円の責任を問われた川崎市水道局事件(横浜地裁川崎支部H14.6.27判決、東京高裁H15.3.25判決)等が挙げられます。 本件では、Y社長は他人事のように捉えているようですが、Y社長が意図したことでなくとも、M総務部長のS社員に対する言動について何らの対策をとらず放置していた場合、また、M総務部長の言動について容易に知り得た場合等については、F社として職場環境調整義務に違反した債務不履行責任、M総務部長の使用者としての不法行為責任を負うことが避けられません。この点は、M総務部長の言動が業務上必要なものであったとしても、社会通念上相当な程度を超えて人格権侵害があると評価できるような場合であれば、同様にF社の責任が問われかねません。 F社の賠償責任が数百万円単位になることは考えにくいところですが、僅かな金額であっても、マスコミ報道やインターネットによる情報伝達の可能性を考慮すると企業イメージを損なう可能性は大きいと言えます。 ■ M総務部長の責任 M総務部長は、S社員に対して業務指導を行っていたとしても、いじめに関しては直接の加害者であって、不法行為に基づく損害賠償責任を免れるものではありません。通常、S社員が損害賠償請求を行う際は、F社とM総務部長双方に対して連帯して損害賠償を行うよう請求しますので、法的には、M総務部長とF社の賠償責任額は同様になるものと考えられます。 ■ F社及びM総務部長のS社員に対する請求 S社員は、故意にF社の什器備品を壊したのですから、F社に対し什器備品相当額の損害賠償義務を負います。 しかし、S社員が什器備品を破壊したと言っても、実態はM総務部長との喧嘩であり、喧嘩の原因をもっぱらM総務部長が作出したのであれば、S社員のF社に対する賠償責任額は相当程度減額されると思われます。 現実的には、この件で裁判を行うことは考えられないため、F社としては、S社員の懲戒解雇、退職金の減額・不支給等を検討することになると思われますが、パワハラが原因とされれば、当該処分は無効となるおそれが高いでしょう。 ■ M総務部長の請求 M総務部長は、S社員に対して治療費を請求すると言っています。 確かに、前述のようにF社がS社員に対して損害賠償請求が可能なのと同様に、M総務部長は、故意に怪我をさせたS社員に治療費の賠償請求をできます。 しかし、本件がパワハラによるものと認定されれば、M総務部長の怪我も、もっぱらM総務部長自身が原因を作出したものとなります。したがって、現実には、相当程度S社員の賠償責任額は減額されるでしょう。 |
| 本件のように、職場でけんかをして突然退社する!ではなく、経理社員が突然退社、あるいは出勤してこないケースがあります。よくあるケースでは、決算後において公認会計士による監査予定日の直前になって担当部署の経理社員が突然欠勤してしまう場合や、転勤を命じられた場合の新任者との引継ぎ予定日に欠勤してしまうなどの例です。 こういった場合には、横領や流用などの不正行為が行われていたケースが多く、いわばもう事件が起きてしまった後ですので、本来ならば事前にこうならないように内部牽制を生かすなどにより留意しておかなければなりません。 このような不正の可能性がある場合以外にも、「経理社員の退職時や転勤時」などに企業が確認すべきことを規定などに明示して社員に周知することは、経理上事故の未然防止に効果があります。 例えば、「経理担当職員業務引継ぎ時に行う確認事項」として、以下のような内容を周知しておくことが考えられます。
さて本件のように、もしもS社員がこわれたパソコンやプリンターの代金を弁償したときの会社の会計処理はどうなるでしょうか? 法人税法上では単純に益金となりますので問題はありません。一方、課税事業者における消費税の扱いでは、この弁償金に消費税がかかるかどうか、すなわち取引が「課税取引かどうか」は、その取引が国内において事業者が事業として対価を得て資産の譲渡、貸付、役務の提供である「課税資産の譲渡の対価」であるかどうかを判断基準とします。 そのため通常、損害賠償金のうち、心身または資産につき加えられた損害の発生に伴い受けるものは、上記にいう資産の譲渡等の対価に該当しませんので課税取引にはなりませんが、例えば、次に掲げるケースのような損害賠償金のように、「その実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認められるもの」は課税取引となります。 「損害を受けた棚卸資産等が加害者(加害者に代わって損害賠償金を支払うものを含みます)に引き渡される場合で、当該棚卸資産等がそのまま又は軽微な修理を加えることにより使用できるとき」に当該加害者から当該棚卸資産等を所有するものが収受する損害賠償金。 したがって、本件では、床に落ちてこわれたパソコン等の故障が軽微で、弁償することによってS社員が退職を契機にこれらを持ち帰った場合には、実質的に譲渡の対価とみなされ、課税売上となります。 また、このパソコン等がもはや使用不可能になり、いわゆる損害賠償金や慰謝料のように収受するケースでは、その賠償金は「課税資産の譲渡の対価」ではないために、消費税の課税売上にはなりませんので留意してください。 損害賠償でみられるケースでは、ほかには従業員による交通事故の損害賠償金の支払いについて、本人は弁済能力がないために会社が本人に代わって支払うようなケースです。この場合には、事故の状況に応じてその取り扱いが異なります。 (1)損害賠償金の対象となった行為等が会社の業務の遂行に関連するものであって、故意又は重過失でない場合は、給与以外の損金算入に算入します。金額の多寡にもよりますが、一般的にはその内容を明示した特別損失の科目で処理することになるでしょう。 このような処理をするのは、法人の業務遂行上は従業員による事故等は統計的にみても不可避と考えられるので法人の費用として認められるものと考えられます。 (2)その行為が会社の業務遂行に関連するものであっても「故意又は重過失があった場合」や、法人の業務遂行に関連しないものである場合には、これらの行為は本来起こしてはならない避けるべきものであり、法人の業務には無関係な賠償金と考えられるために、その従業員に対する債権として処理します。 あってはならないことですが、無免許運転や飲酒運転等で事故を起こした場合には、これに該当することになります。ただし、その従業員の支払能力等から見て、会社が求償しても回収できない事情にある場合には、その債権の全部又は一部を貸し倒れ処理することができます。 |
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